前回の記事では、GITADORA暗黒期とそこからの脱却、そして史上最高の舞台と言えたKAC2013についてお送りした。
記事のボリュームも段々大きくなってきたが、この先は安心して欲しい。前回の記事以上に分量が膨れ上がることはないと思う。
今回の記事では、安定した良作と言えるOverDriveと、ギタフリ界に新時代をもたらした『にるなっつ』の急成長、そしてThe 4th KACについてお送りしたいと思う。
OverDrive稼働
2014年3月5日、GITADORA OverDriveへのオンラインアップデートが行われた。
この画像に璃音が描かれていることからもわかるように、オトベアに加えた新たなマスコットキャラクターとして、ひまわり*パンチの3人が登場した。
この作品では、細かな変更が多々行われた。以下にそれを列挙していく。
まず、ネガティブな点として挙げられるのは、初期状態の新曲が6曲しか無かったことだ。
これでは無印GITADORAのほぼマイナーチェンジに過ぎず、過去2作の悪夢の記憶もあって、不安を表明するプレイヤーも多数いた。
ただ、作品が終わってから振り返ってみれば、初期曲が少ない分隠し曲数は潤沢であり、特に問題は無かったと言えるだろう。
次に、1クレジットの料金の値上げ。それまでは100円玉でも100パセリでも変わらなかったクレジットが、パセリを使ったスタンダードプレーと、100円玉によるライトプレーに分かれ、ライトプレーには様々な制限がついた。
そしてスタンダードプレーは、基本的に1クレ120パセリとなった。
値上げというのは、常に機会損失の危険を孕んでいる。実際この時も、値上げに伴い離れたプレイヤーもいたと思う。
しかし、昨今のゲーセン周りを囲む事情を鑑みれば、多少の値上げは仕方ないとも言えた。初代XGのような200円3曲固定などという無法な設定ではなく、また店側で価格設定を調整することも可能となったため、この変更をユーザーは緩やかに受け入れた。
以上がネガティブな点である。えっ?これだけ?天国か?
では次に、改善点を挙げよう。
まず、ロング曲と全曲スキルの復活。ロング曲に関しては、KAC2013で行われた嘆願が早くも実現した形となった。
初期状態で復活したロング2曲が、Sweet Illusionと、DEPARTURE。あまりにも『わかっている』チョイスに、古参プレイヤーは胸をときめかせて選曲ボタンを押したものだ。
全曲スキルの復活も、一部プレイヤーにとっては多大なモチベに繋がったことだろう。
次に、バトルシステムの復活。こちらは5月15日実装。
これもKACでのユーザーの要望が通った形となる。V時代に比べれば、プレイヤーの少なさや正規縛りである点など不自由な点もあるが、それでも今では1000勝を超えるほどバトルをしているプレイヤーも散見されることを考えれば、インカム増加に繋がるポジティブな変更と言えるだろう。
その他、HELPボタンを押すことによるタブシステムの導入、難易度フォルダの細分化(1.0刻み→0.5刻み)など、細やかな部分の改善も見られた。
隠し曲の基本的な解禁方法はMusic Factoryと呼ばれるもので、楽曲プレーによって得られるドライブフレアを注入することでパーセンテージを溜め、曲を解禁するというもの。
要するに、クレジットさえ積めばいずれは曲を解禁できた。この作品以降の隠し曲解禁方法は基本的に似たり寄ったりの貢ぎゲーとなり、以前のような奇抜な方法での解禁イベントが無くなって味気なくなったとも言えるが、奇抜な時代に生きていたプレイヤーとして言わせてもらうと、過去の多々の糞みたいな解禁イベントよりは遙かに今の方がマシである。
その他、FLOOR INFECTIONやBEMANIスタジアムなどの連動解禁イベントもあった。
また、OverDriveではオーダーランキングという空気イベントもあった。
いくつかの課題曲が指定され、正規縛りで曲別スコア×曲の難度の合計で争うという、完全に現在のKAC予選と同じルールのスコアアタックである。
正規縛りという点が災いしたのか、これを本気で楽しんでいるプレイヤーは少なかったと思うが、KAC常連からしてみれば腕前を磨くとともに自分の立ち位置を確認できるありがたいイベントであった。
OverDriveに関する記述は以上である。安定作すぎて語ることが少ない。
当時のプレイヤーの動向
現在押しも押されもせぬスキル界の覇者といえばけーえむさんだが、その一強支配が始まったのは無印ギタドラからだ。
初代XGの覇者はぴこ君、XG2でもりくんに王座が移り、XG3は1位もりくん、2位けーえむさん、3位らいむ君の3強時代であった。
そしてもりくんが第一線を退き、代わりに第三席の位置に成長したたまごさんが入る形で、無印では新たな3強が形成された。
これが、無印GITADORAの最終ランキングである。スキル9000に達したのはわずか11人。
この時俺のスキルは8770で、35位であった。
一方これが、オバドラの最終ランキング。
スキル9000は27人に増えた。9200台が5人出て、その顔ぶれも変化した中で、唯一9300台に乗せていたけーえむさんがいかに圧倒的かということがわかるだろう。
オバドラでは、初日にゴーイングマイウェイ!紫Gが追加された。そしてけーえむさんは、初日にそれをスパランでフルコンした。
以来、けーえむさんが稼働最終日にスキル1位の座に座れていなかった作品は一作もない。
個人的に、スキルランキング1位とKAC優勝は同格の栄誉だと思っている。それで言うと、けーえむさんは6回KAC優勝していることになるね。
ランキングで次に目を引くのが、2位の座についたにるなっつだ。
KAC2013では、グループD3位通過。本戦ではぴこ君に敗れて1回戦敗退。スキルも高いものの無印では9000には乗っておらず、そこまで注目される存在ではなかった。
彼の姿を初めて見たのは、KAC2013前日の秋葉原。
Genesis Creation Narrative紫Gを正規でほぼノーミスで弾きこなす姿を見て、『この人もかなり上手いなぁ』という印象を得た程度だった。
その彼が、KAC2013からThe 4th KACの間で化けた。詳細については、後ほど記述することにしたい。
そんな中、オバドラの俺の最終スキルは8869、39位。
この年は初期研修医として働き始めた年だから、学生時代のようなペースでギタドラをプレーすることはできなかった。
現行の初期臨床研修はスーパーローテート制といって、2ヵ月か1ヵ月ごとに科を変わり、医療についてまんべんなく勉強させていただく方式となっている。
俺の全ての目標はやっぱりKACに集約されていたから、しんどい科を上半期に集中し、秋・冬に楽な科を固めるスケジュールを立てた。
多くの同期は夏休みの時期に楽な科を合わせていたので、俺の選択はありがたがられたものだ。
しかしながら、いくら楽な科といっても仕事は仕事、医療は医療。
本気で優勝を目指す気概は残っていたものの、実情は苦しいものであった。前年の準優勝である程度満足していたこともあり、腕落ちした状態で勝負の冬を迎えた。
The 4th KAC予選
2014年12月17日。年またぎのため名称から年号が外れ、The 4th KACと呼ばれることになった大会の開催が発表された。
大きな変更が、二つ。
まず、決勝ラウンドがJAEPO(幕張メッセ)のイベントの一環として行われるようになったこと。
これに関しては、そう大きな問題はない。六本木ミッドタウンホールに比べればやや豪華さは下がるが、2013が豪華すぎたという話でもある。
二つ目の変更を知り、俺たちの瞳に闇が宿った。
決勝ラウンド進出枠は、わずか4枠。未だかつて誰も経験したことのなかった、弱肉強食の宴の始まり。
そして課題曲の発表。
Nature(GITADORA Ver.)、TOXIC VIBRATION、星宿る空の下で、DEATH BRINGER、赤い鈴。
ついにKAC予選が、本気を出して牙を剥いてきた。
この課題曲を見た時の俺の感想は、『今年は無理だな』であった。
どう見てもトップランカー御用達の枠数と、課題曲。
こば君に電話をかけ、今年の決勝進出者の予想を話し、まぁ俺も頑張れるだけは頑張るよと伝えて電話を切った。
予選で最初に激震を起こしたのは、にるなっつだ。
本人いわく、『KAC2013でぴこ君に敗れて以来、ギタフリ熱に火がついた』とのこと。
正規で数々のバケモノリザルトを出し、スキルランキングでも最上位に上がり、『やべー奴が出てきた』と周囲からは認識され始めていた。
しかし、当時の彼のTwitterアカウントが残っていないため、その動向の詳細は今となっては調べることができない。
12月22日、The 4th KAC予選初日。にるなっつは、赤い鈴紫Gを早々にフルコンした。
それを受けた周囲は、賞賛の反応こそ示すものの、さほどの驚きはなかった。『奴ならそのぐらいやっても不思議ではない』。そんな評価を当時彼は既に得ていた。
思い思いの戦略をもって、予選は進んでいく。12月23日、たっくみんはトキシック紫Gをフルコン。ネイチャー紫Bも同日フルコンし、上位をうかがう。
デスブリ紫Gは5曲の中では最も空気だが、この曲には入れても順位的に意味のない100点の理論値超えが1ヶ所存在する。俺、すーちょ先生、栗坊さんはそれを入れ、遅延ランカーとしての意地をアピール。
12月29日、ぴこ君がトキシックをフルコン。
戦いが過熱する中、年が明けた1月2日。あの男が動いた。
”代行なんで名前は隠しますがこんなん正規でサクっと繋がらない人は少なくともトップランカーではない。”
こんな挑発とともにアップされた、トキシック紫Gグレ2フルコンの画像。
名前は言わずともわかるだろう……そう、やばさがだ。
言っていること自体は正しい。しかし、代行であることを公言している点は正しくない。
俺はその時、怒りに燃えた。こいつにだけは絶対に負けたくない。
悪を倒すのは正義ではない。力だ。力をもって、このふざけた男を正面からねじ伏せてみせる。
そう決意し、鋼の対策と炎の実践を加速させた。
同日1月2日、にるなっつはA.DOGMA紫G正規エクセを達成。
予選とは全く関係ない所での偉業に、界隈が震撼する。
1月5日、にるなっつに続いてぴこ君が赤い鈴紫Gをフルコン。残すはネイチャーだけ。
ネイチャーはワイリングとレベルの関係上、KACスコアの理論値が紫G>>>>>紫B>赤Gであった。ぴこ君はこの時点で、ネイチャー赤Gをフルコンできれば予選通過できる位置につけた。
にるなっつは赤い鈴紫Gを繋ぎなおしてスコアを伸ばすという意味不明な境地にいた。2人の予選通過はこの時点でほぼ確定。残りは2枠。
1月7日、たまごさんがトキシック最後切りの99.38%でグレ0ミス2を取得。惜しい。
当時のツイートが見れないのだが、らいむ君は既にトキシックエクセを出している。彼はこういう譜面が得意だった。
ななろくさんもトキシックエクセ、ネイチャー紫Bフルコン、赤い鈴もフルコンこそ逃したものの紫Gにつけ、赤Gエクセでは抜けないスコアを取得。
トップランカー達が着々と結果を出す中、俺は俺で努力を重ね、自分の限界を超えつつあった。
1月6日。
1月10日。
そして、1月14日。
努力は、実る。できないなら、できるまでやる。
411回目の選曲で、トキシック紫Gをフルコン。そして414回目、エクセを達成。
アミパラ倉敷店にて、俺は咆哮した。
赤い鈴赤Gもグレ1でフルコンし、決勝進出を射程圏内に入れる。
残すはネイチャーのみ。そして1月15日、歴史的な一日が訪れる。
午後1時34分。
”とうとう辿り着いた………。 Nature(MAS-B) エクセ出ました!!!!!!!!!! 会場で会いましょう!!!!!!!!!!”
ぴこ君が人類初と思われるネイチャー紫Bエクセを達成。
それに刺激され、俺もネイチャー紫Bに全力の粘着を開始。
まずはグレ2で接続しなおしたが、このスコアはワイリングを1ヶ所鳴らし損ねてしまっている。ここで終わるわけにはいかない。
そして、午後6時32分。
成し遂げたぜ。
このスコアが、ネイチャー紫Bの歴代全一。現在しょごちゃんがまとめてくれているレベル9台歴代スコア表に、唯一俺が足跡を残せている誇らしい記録だ。
さらに同日、にるなっつもネイチャー紫Bエクセを達成。
この時点で、ランキングには1位にるなっつ、2位ぴこ、3位ななろく、4位讃岐うどん屋さんが並ぶこととなった。
まだだ。4位ではまだ安心できない。
それと同時に、俺には4位通過するわけにはいかない個人的事情があった。
これがThe 4th KAC予選の最終結果、ベスト16までの面々だ。
デスブリと星宿るは空気。ネイチャー紫Bエクセが3人。紫Bフルコンが、おそらくななろくさん、たまごさん、たっくみんの3人。スコアが高い人達の残りは赤Gのはず。
トキシックエクセが4人、フルコンが5人か6人。赤い鈴に関しては、ぴこ君とにるなっつが紫Gフルコン、ななろくさんとまっちゃんが紫Gフルコン逃しで、残る人たちが赤G。
5位の小泉花陽。ネイチャーがおそらく赤Gについている中で、他の人の1200万点台から1人だけ離れた、13152180というスコア。星宿るで全一を奪っている遅延力。トキシックエクセ。
勘のいい人ならもうお気づきだろう。そう、これがらいむ君の最後の悲劇だ。
またしても。またしても彼は、逆ボーダーに沈んだ。
そして俺が、4位通過するわけにはいかないと思った事情がこれだ。
4位通過では、俺が直接らいむ君を蹴落としたことになってしまう。
蹴落とされる側からしてみれば、そんな違いは些事だろう。そう、それは俺の自己満足だった。それでも俺は、4位通過したくなかった。
3位に上がっておきさえすれば、もしらいむ君が奮起してくれた場合、一緒に予選を通過することだって可能。そんな淡い期待も無いわけではなかった。
そのため予選終了前日の1月18日日曜日、俺はアミパラ倉敷店に籠って最後の赤い鈴赤Gの粘着を始めた。
22時27分。
22時46分。
23時55分頃、ついにグレ0でアウトロに突入することに成功し、揃った!と思った瞬間。
”間もなく当店は、閉店となります。まだプレーを続けられているお客様は~”
店内に流れる、閉店のアナウンス。電源を落とされるかもしれない、ヤバい!
そう思った瞬間、コンボが切れた。俺はその場に崩れ落ちた。
だがしかし。ここで終わるわけにはいかない。
疲れた体に鞭打って、深夜でも営業していた楽遊に移動。
そして、1時26分。
何度でも言おう。できないなら、できるまでやるのだ。
そして俺は、3位通過を決めた。
戦う相手は、超新星にるなっつ。王者ぴこ。覇王ななろく。
……猛獣の檻かな???
The 4th KAC決勝ラウンド
予選通過者に向けてKONAMIから送られてきた、決勝ラウンドのルール説明と課題曲一覧のメール。
それを確認し、ライバル設定をいじってからゲーセンに赴いて、俺は頭を抱えていた。
『準決勝では課題曲一覧の中から各自が選んだ1曲ずつを投げ、決勝ではKONAMIが指定した2曲をプレー。ともにバトルを利用して勝敗を決する』。
まず、決勝はKONAMI指定の楽曲というのが俺にとっては厄介だった。
俺の強みは、正規にどんなに粘着しても癖がつかないということと、確固たる対策に基づいた安定感だ。
自分で投げる曲を指定できるか否かが、勝率に直結する。
このルールでは、準決勝に全てを賭けるしかない。
ほぼ全てのアンコール曲について対策を打っていった前年と比べて、自由にできる時間も、周囲の状況も異なりすぎていた。
そして上記の決断に至ったもう一つの理由が、にるなっつ、ぴこ君、ななろくさんをライバル登録して片っ端から調べていった、各曲の達成率だ。
見習い天使、ミラージュ、ホワトルなど手頃な難度の譜面に始まり、XtG、オバゼア、メメントモリなどの高難度曲まで幅広く40譜面ほどの選択肢があったこの年のラインナップにおいて。
俺はほとんどの曲で後塵を拝し、大部分が4位。いい曲でも3位、中難度の全員フルコンしているような曲ですらグレ数で3位だったり2位だったり4位だったりした。
そんな中、1位をとれていた曲が1曲だけ。
97.87%。Elemental Creation -GITADO ROCK ver.- 赤G。
ここに賭けるしかない。
相手選曲でビハインドを背負うことは、どう対策を練っても避けられない。
ならば、防御力を高めることさえ捨てて。エレクリに全てを費やそう。
決勝のことは、考えない。そんな余裕は無い。
らいむ君、たまごさん、けーえむさん、たっくみん、以下錚々たるランカー達を蹴落として、俺は2月14日、決勝の舞台に立つのだ。
無様な姿だけは見せられない。心中に走る想いは、ただそれだけであった。
エレクリで勝負をかけるにあたって頼ることにしたチート作戦が、『電熱グローブ』だ。
これは冬場のバイク乗り向けの商品で、ヒーターが内蔵されており手先を温めることができる。
KAC2013の予選の夜、えるしぃ達京都勢数名と井戸端会議をしていた際に友人の1人が所持していたこのアイテムを、この時俺は思い出した。
KAC開催は、厳寒期。ウォーミングアップも十分とは言えず、控え席で待たされた冷えた状態で筐体前に立つことになる。
ここで電熱グローブを使って、手を温めた状態で、エレクリというスピードが求められる曲で勝負をかけることができれば、格上相手に勝利を拾う確率を高めることができるだろう。
そう考え、バイク屋でこれを購入。そしてそれ以降、仕事の後に白筐体のあるファンタジスタまで足を伸ばせる全ての日を使って、エレクリを磨き上げることにした。
97.87%程度ではダメだ。おそらく俺がこの曲を選ぶことは、容易に読まれるだろう。
決勝で戦う怪獣たちに打ち勝つため、まずはサブカを作って達成率の上昇を秘匿しながら、1クレ目の1曲目からエレクリに真摯に向き合った。
2月5日。
初めてのフルコン。この日は調子が良く、1クレの中で2回フルコンを出すことに成功した。
2月7日。
生涯唯一のエクセを達成。メインカードにはエクセマークはついていない(笑)
2月8日。
2月12日。
最大の目標はフルコン安定だったが、そこまでは流石に到達できなかった。
しかし、3回に1回ぐらいの確率でフルコンできるという手応えは得た。10日間の研鑽を経て、凡庸な浅打に過ぎなかった一振りの刃は、万象一切灰燼と為す必殺の武器へ姿を変えた。
今回は、この曲と心中だ。そんな覚悟を携えて、俺は決勝前日、仕事を終えてから東京へ向かった。
実はここで一つ、アクシデントがあった。4位通過したななろくさんが決勝数日前になって、プライベートの都合のため出場できないことを表明したのだ。
タイミングがギリギリだったため、5位のらいむ君はこれに応じて参戦することができなかった。流石にキレ散らかしていた彼のツイートを覚えており、これには俺も同情する。
結局6位のたまごさんが壇上に立つこととなり、補欠として会場に来たのは8位のたっくみんだった。
この時のたっくみんとの出会いが、翌年のKACの行方を左右したりしなかったりもするのだが、それはまた次回の記事で語ることにしよう。
さて、大会当日朝。俺は電熱グローブを装備し、会場に向かう。
誓約書への記入を求められた時の一幕が、こんな感じだ。
KONAMI「当日は筆記用具持って来てくださいね」
讃岐うどん屋さん「誰か持って来るやろ」 たまご「ぴこ君ペン貸して」 たっくみん「俺も貸してください」 にる「筆記用具いるとか書いてたっけ?」 ぴこ「」
そして、ウォーミングアップ。
メインカードのベストを更新する、渾身のリザルトを一撃で取得。
エレクリで来るということは読んでいたとしても、流石にここまで仕上げてくるとは予想していなかっただろう。
心なしか、たまごさんの表情が引きつっているように見える。内心でほくそ笑みながら、まずは準決勝の組み合わせを待つ。
優勝を狙うという意味で言えば、一番いいのはにるなっつと当たることだ。
4人の中で、明確に彼の地力が最も高い。決勝で当たることになれば、おそらく必敗。
勝とうと思えば、エレクリでしばくしかない。しかし、彼の選曲でボコボコにされる可能性も無くはない。
様々な思惑が脳裏を駆け巡る中。
ぴこかぁ~~~!!
正直誰とも当たりたくないというのがこのメンツの本音だが、俺にとってななろくさんが出なくなったことは朗報だった。
当時の段階では、エレクリを投げて返り討ちにされる可能性が一番高いのがななろくさんだったからだ。この3人なら、誰と当たってもエレクリはある程度効果的とは踏んでいた。
にるなっつが選んだのは、当時の彼の代名詞。正規エクセを何回も出している、ゴーイングマイウェイ紫G。
対するたまごさんが選んだのは、KAISER PHOENIX紫G。
たまごさんの出場が決まったのは決勝直前だから、武器曲を仕上げる時間も、コンディションを整える時間も足りなかったと思う。
結果は、ゴマエでグレ2ミス8、達成率90%超えという流石の安定感を見せ、カイザーの終盤もほぼ繋いでみせたにるなっつが貫禄の勝利。
続く第2試合、ぴこ君の選曲はコンチェ紫B。意外な選曲だった。
当時のラインナップの中で、俺が一番嫌だったのはバンギン赤Bだ。戦前の達成率でぴこ君はMAXがついているのに対し、俺は82.32%という体たらく。
ただ、バンギンはにるなっつもななろくさんもフルコンしており、選びにくいだろうとは思っていた。
実はここには裏話があって。決勝数日前、俺はぴこ君とLINEをしていたのだが。
そこで、カマをかけにいった。「ぴこ君バンギン赤Bとか投げそうやな~」と。
それに対するぴこ君の返答、正確には覚えていないのだが、こんな感じだった。
「どうでしょうね~?ただ、意表を突いた曲を選んだつもりですよ~」
ほうほう。意表を突いた曲か。
もちろんブラフという可能性もじゅうぶんある。しかし、せっかく漏らしてくれた情報だ。
ほなコンチェ紫Bあたり触っとくか。
そう決めて、東京入りの前日に1回だけコンチェ紫Bの譜面を学習しておいた。
それまで俺のコンチェ紫Bには達成率がついていなかったことを考えると、ここで触っておいて良かったと心から思う。
そして結果は、ご覧の通り。これが俺のギタフリ人生における、2度目の最高の瞬間である。
ちなみにこの時のぴこ君の服装は、弦兄ぃのコスプレだ。
KACのTシャツと合わせると、全身真っ黄色のタイツ芸人になってしまう。朝控え室でその姿を見て爆笑したのも良い思い出だ。
カードネームまでぴこ兄ぃに変えて、観客を楽しませる精神を見せた彼のエンターテイナーぶりに敬意を表したい。
さぁ、前年王者は倒した。決勝戦、今年の相手はにるなっつ。
そして気になる課題曲。1曲目は、童話回廊紫G。
前年の白虎に続き、俺の苦手な階段譜面。アンコール曲なので時間さえあれば対策してきたはずだが、この年は余裕が無かった。
そして、2曲目。前年のSOUND VOLTEXでの演出に追随する形となった、初見曲の発表。
初見をやらされるのではないかということもある程度予想はしていたが、俺は対策力が高い一方、初見の弱さにはランカーの中でも定評がある。
かなり不利な選曲。しかし、この時点で皮算用をしても意味がない。
MODEL DDUという垂涎のボス曲を、世界で一番最初にプレーさせてもらえるのだ。
その誉れを、存分に堪能しよう。そういう思いだった。
まずは、童話回廊のリザルト。実はこの時、俺はKACの魔物に捕まってしまっていた。
対策をしていないことに加え、Aメロの最初で譜面を見間違えて大量ミスを出してしまい、動揺してしまった。そして、終盤に至るまで立て直しがきかず、凡庸なリザルトに沈んでしまった。
しかしそれにしても、にるなっつのグレ5ミス3というのはできすぎではないか。この男、強すぎた。
そして、続くMODEL DDU紫G。
これはバトル前の2人の反応だが、この時筐体上で、DDUのレベルが一網打尽紫Gと同じ『9.99』であるのを見て、俺たちは戦慄していた。
9.99を初見でやらせるな……!!!(心からの叫び)
このDD8部分の譜面を作った奴ちょっと来い。
そして対戦結果。
にるなっつは、MODEL DDU紫G正規初見でSランクを取得してみせた。
付け入る隙のない、完敗だ。1000回やっても1000回負けただろう。
新時代の到来。壇上でハグを交わしながら、俺はある決意を固めていた。
俺は、3本指プレイヤーだった。
初代XGにて、Piranha赤Gをやりこみながら、このゲームを3本指で攻略するか、4本指を練習するか、迷っていた時。
自分の目標は、公式大会のブロック決勝出場だ。そういう観点で見れば、少ない本数に集中できる分、安定感を生み出しやすい3本指の方が有利。
そう判断し、2015年2月に至るまでずっと人・中・薬の3本指のクオリティを高めることにのみ腐心してきた。
その方針は、目標がKAC優勝にシフトしてからも変わらなかった。自分の強みはあくまで、対策力と安定感。それを生かすなら、3本指だ。
2013年のレベルのぴこ君までなら、3本指で倒せるチャンスがあるとも踏んでいた。実際この年勝っているわけだから、その算段は正しかった。
しかし。にるなっつという、本物の化け物の台頭。加えて、決勝での超高難度曲の初見プレイという選曲の変化。
初見プレイにおいては、圧倒的に4本指が有利だ。
勝つためには……俺も4本指に、進化するしかない。
それは、猿人から新人への進化に等しい、根本的転回。
俺の新たな挑戦が、その時始まった。
←続・ギタフリおじさんの長い話③ 続・ギタフリおじさんの長い話⑤に続く→
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