癖について その3

それでは、「何故60%以上の力で同じ譜面に粘着し続けると癖がつくのか」というところを深く読み解いていこう。

癖にはいくつかの段階があり、進めば進むほど重症化する。癖がつきそうな時には、早いうちにそれを回避して別の道に進むのが一番だ。この項ではそのうちもっとも軽症である、癖 TypeAについて考察する。

疲労は癖の始まり

人間の体の運動は、大ざっぱに言うと命令を発する中枢神経と、それを筋に伝える末梢神経と、実際に動く筋によって成り立っている。

筋が動いた結果として実際に及ぼす外力に大きく関わるのは骨だし、皮膚、軟部組織の要素ももちろんある。運動のために必要なエネルギーを筋に届けるのは循環系と呼吸系だし、そのエネルギーの源を得るために消化系が働き、代謝・内分泌系によって底力が発揮されたり発揮されなかったりもする。

しかしまぁ、癖云々の話に限るならば、考えるのは中枢神経(要するに脳)、末梢神経(いわゆる神経)、筋に限れば良い。

なお、中枢神経の仕事は命令を発するだけではない。動いた結果のフィードバックとして感覚神経から情報が主に小脳などに伝わり、自分のイメージと実際の動きとのズレを修正する役割を担う。

人間は機械ではないから、寸分狂わぬ精確な動きをするのは土台から不可能だ。日によって体調も変わる。優れた修正機構が無ければ、イメージ通りの動きを続けることは不可能だから、感覚神経と小脳などの働きと癖との関わりは非常に深い。

しかし、TypeAにおいてはまだ、この修正機構は関係しない。今回の主役は筋と、その疲労である。

前項での説が正しければ、60%以上の力を発揮すると、人はだんだん動きが鈍くなるはずだ。ここでは「部分的に筋の動きが鈍くなる」ことを疲労と呼ぶ。

一般生活での疲労と言えば、仕事が忙しかった時や、精神的に苦しい時などに襲われる、全身にのしかかる何とも言えない嫌な感じのことを連想するだろう。

しかしその疲労は、ここで私が言いたい「疲労」とは厳密には異なる。それは疲労ではなく、「疲労感」と呼ぶべきものだ。身体の疲労が蓄積した結果として、明確に大脳によって認識された、「全身がヤバい」というシグナルだ。

逆に言えば、疲労感はあるけれども、筋は疲労していない時ももちろんある。まぁそういうときは脳が疲労しているから、音ゲーをしてもろくな結果は出ないものだが。

癖に関わる疲労は、疲労感を伴わない、認識されないものだ。たとえ疲労感が無くとも、人の体は疲労している。そしてそういう疲労が真っ先に出てくるのは、何回も何回も動かされた上に、元々弱点を抱えていた部分からである。

少し話が前後するが、800m障害物競走において、「ある100mの間だけ絶対に14秒以内で走ってください」と言われて、1本目や2本目はその条件をクリアできるとして、それを何本繰り返せるか。10本か?20本か?

それこそ個人差だが、同じパターンの試走を繰り返すうちに、絶対に条件をクリアできない時がやってくる。当たり前のことだ。そういう時、どう解決する?きっと、その日はもう切り上げて家に帰って寝るはずだ。当たり前のことだ。

それを当たり前のことと思えるのに、何故同じ譜面にいつまでも粘着しておいて、条件を何度でもクリアできるなどと考えてしまうのか?60%以下の力で捌ける譜面なら話はわかるが。

というわけで、癖 TypeAの正体は疲労である。ただしその疲労とは、必ずしも一般的に考えられている疲労だけを指すわけではないことが厄介なポイントだ。疲労感を伴わない部分的な疲労をいかに疲労と認識し、癖がつく前にケアするか。それこそが癖 TypeAを回避する手段だ。

なお、一般的な癖対策手段である「放置効果」の一番の理由は、この疲労抜きにあると私は考えている。しばらく休めば疲労は抜ける。疲労が抜ければ筋は動く。放置効果の全てがこれで説明できるわけでは無いが、これまた当たり前のことだ。

癖 TypeAとつきあう方法

さて。ここまで読んだだけでは、ある疑問が湧くだろう。「癖対策は、癖がつく前に休むこと?それって結局、放置するのと何が違うの?」と。

実際の所、違わない。最も簡単な癖 TypeAの対策は、疲労に気づいたら放置することだ。

だが私は、それを超えるさらなる対策を持っている。リザルトやミスの出かたと相談しながら、今自分の指の筋のどこがどの程度疲労しているか(さらに言えば、今自分の指の筋のどこが普段と比べて調子が良すぎるかも含む)を常に意識することがそれだ。

これは一朝一夕で身につくことではない。人に教えられてできることでもないし、一度身につければそれで終わりというものでもない。要は自分の肉体の持つ能力を、どこまで細分化し、どこまで正確に評価できるかということだ。

この「自己の肉体評価」の際には私の持つ医学的知識も大きく関係しているし、誰にでもできることでは無いと思う。しかし、たとえ専門的な知識が無くとも、これを意識すること自体は無駄にはならない。何なら本気で上達したいなら、自分で勉強しても良い。

意識して、部分的に疲労している部分を把握したとする。その筋はさっきまでは十全に動いていたが、もはや60%の力を発揮するだけでは目標通りに動くことができない。しかし、他の筋はまだまだ元気だ。60%の力でバリバリに仕事を果たすことができる。こういう状況において、最も癖はつきやすい。

しかしながら、訓練を積めば、そういう疲労した筋を優先させて、70%や80%の力を発揮させることはできる。何も100%を出そうと言うんじゃ無い、80%だ。やっているのは800m走ではなく、音ゲーだ。その状態で、1時間やそこらはもつだろう。

そうしながらプレーを継続することによって、肉体の脆弱な部分を優先的に鍛え上げることができる。その状態で限界まで頑張る。頑張って頑張って、頑張る比率も上げていって、100%近い力を発揮しても足りないぐらい疲労が蓄積したと感じたら、家に帰って寝たらいい。

癖をつけることなく、弱い部分だけを優先的に鍛えると、どんな結果が待っているか?普通に60%の力を発揮するだけで、今まで苦労していた譜面を捌けるようになる未来が、素晴らしい早さで到来する。

重ね重ねになるが、このときに最も重要なのが、自己の肉体をいかに正確に分析できるかだ。分析を間違った状態で80%の力を出そうとすれば、さらに劣悪な疲労に至り、癖に向かってまっしぐらだ。

さらに言えば、疲労した部分にだけ80%の力を出させればいいというものでもない。人間の体は繋がっているのだから、弱い部分の動きを変えれば、強い部分の意識も変えないといけない。弱い部分にだけ集中しようとすればかえって逆効果で、やはり癖に向かってまっしぐらだ。

努力家なのに癖に弱いというタイプの人がだいたいこれであり、真面目であればあるほど陥りやすい。癖をつけないためには、いい案配で肉体のバランスをとってやる必要がある。いい案配を見つけるために必要なのは、癖がつきそうな危ない状態を敏感かつ詳細に察知する判断力。そしてその上に立脚する、自己の肉体との時間をかけた丹念な対話だ。思いやりと、厳しさと、冷静さと、謙虚さをもって、肉体と向き合いながらプレーしなければならない。

こういった能力の無意識的な有無こそが、癖に強いプレイヤーと弱いプレイヤーを分けているとさえ思う。「できる癖をつければいい」というのが持論のプレイヤーがいるが、彼らは自然にこれができている。後の記事でTypeB、TypeCと、癖の深層を語っていくが、そもそもTypeAの癖を回避できていれば、その先で苦しむ必要は無いのだ。

そして、私だけがこういう能力を持っているわけではない。ただそれを言語化しているだけのことだ。

ちなみに、「いい案配」を見つけることができないのなら、とにかく無理をしないことだ。つまりそれが、そもそも正規に粘着をしないということだ。無理をしなければ、このタイプの癖には陥らない。もっと重症な癖にも発展しない。

むしろ普通はそうやって成長するのであり、正規に短期間で粘着し続けて癖をつけたくないなどという特殊な状況の方が珍しいわけだが、私はそういう特殊な状況を攻略する方法として今この記事を書いている。

ランダムは疲労を軽減する

そろそろ私の指にも疲労が溜まってきたが、ここで少しだけ、何故ランダムだと癖がつかないのか?ということにも言及しておこう。

ランダムだと毎回体の動きが違う。だから疲労が溜まりにくい。得意な形が降ってくれば、なおさら疲労は溜まりにくい。

30秒間で腹筋を30回(セットA)やるのと、腹筋10回→腕立て10回→もも上げ10秒(セットB)をやるのがどちらがきついかという話だ。そしてそのセットを繰り返すとして、腹筋と腕立てともも上げの順番をシャッフルしたセットCをさらに加えるなら、どれが一番楽かという話だ。

要するにランダムというオプションは、800m障害物競走において、常に75%の力を出していても特定の筋の疲労に至りづらくなる効果を有しているわけだ。何が要するになのか怪しくなってきたが、そろそろ詳細に語るのもめんどくさい。だいたい意味はわかってもらえると思う。

すなわちランダム常備だけで育ってきた人は、脆弱な部分が真っ先に疲労するという正規特有の厄介さを軽減しながら育ってきたわけで、正規粘着をする際に正規が得意な人間との差が出てしまうのは当たり前だ。

普通人間はある1本のルートで目的を達成できる時、もう1本のルートを育てようとはしない。育てようと思ったら、意識的にそれをやらなければならない。正規が得意な人間とスパランが得意な人間が綺麗に分かれる一つの原因である。

そろそろ脳みそも疲れてきたのでいったん終わり。なんか癖=疲労みたいな書き方になってしまったけど決してそうではなくて、癖にはもちろん心理的な要素もあるし、途中で書いた修正機構のエラーも関わってきます。あくまで疲労は癖の入り口。でも、入り口を避けるのが一番の近道。

その4は次にHUNTER×HUNTERの新刊が出る頃までには書くと思います。ではまた。

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